オフィスチェア選定で見落とされがちな評価基準

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オフィスチェアを選定する際、多くの場合、価格・デザイン・ブランド名が主要な判断材料になる傾向がある。特に企業が大量導入する場面では、予算と見た目の統一感が優先され、座り心地や調整機能の詳細まで検討が及ばないケースが少なくない。理想的なオフィスチェアとは「立っている時に近い状態をキープできるもの」とされているが、この視点で評価が行われることは意外に少ない。

個人が購入する場合でも、ECサイトのレビューや知人の推薦をもとに判断することが多く、自分の身体や作業環境に照らし合わせた評価が行われにくい。オフィスチェアは日常的に長時間使用する道具であるにもかかわらず、選定に費やす時間や労力が相対的に少ないという実態がある。選び方の基本として「サイズ・素材・機能」の3つが重要なポイントとされているが、これらを網羅的に検討する機会は限られがちである。

さらに、企業の什器調達においては、納期やアフターサービスの対応体制、廃棄時の回収サービスなど、座り心地以外の実務的な要素が判断に影響するケースもある。こうした事情から、椅子そのものの機能的な評価が後回しにされやすい構造があるといえる。

選定基準を多角化することの意味

椅子の選定基準を価格やデザインだけに留めると、実際の使用場面で期待した効果が得られない可能性がある。特に、身体的な負荷の軽減や作業効率の維持を目的とする場合には、機能面での評価を加える必要がある。

近年、従業員の健康管理を経営課題として捉える「健康経営」の考え方が広がりつつあり、オフィス環境の質に対する関心も高まっている。その中で、オフィスチェアは単なる什器ではなく、生産性や健康に関わる投資対象として見直される場面が増えている。JOIFA(日本オフィス家具協会)ではJIS規格に基づく品質基準を設けており、椅子の耐久試験は5万回(約10年分の使用に相当)をクリアできるかが基準となっている。こうした品質基準の存在も、選定時に意識しておきたいポイントである。

見落とされやすい評価基準の具体例

座面の奥行き調整機能の有無

座面の高さ調整はほとんどのオフィスチェアに備わっているが、奥行き(前後スライド)の調整機能は人間工学椅子などの上位モデルに限られることが多い。

しかし、身長差が大きいユーザーが使用する環境では、奥行き調整がないと太ももの圧迫や姿勢の不安定さにつながる可能性がある。

適切な座面の奥行きは、背もたれに背中をつけた状態で膝裏と座面の前端に適度な隙間が確保できることが基準となる。

共有デスク環境(フリーアドレス制)では、この機能の有無が快適性に大きく影響するケースがある。

体重対応範囲と耐久性

オフィスチェアには推奨体重範囲が設定されていることが多いが、この情報は選定時に見落とされやすい。推奨範囲を超えた使用は、ガスシリンダーの劣化やクッションのヘタリを早める要因になる。また、耐久性についても、メーカーの保証年数やクッション素材の種類によって大きく異なる。モールドウレタンは金型に流し込んで成形するため密度が均一で型崩れしにくい一方、チップウレタンはコストが抑えられる反面、経年でのヘタリが早い傾向がある。こうした素材の違いを確認することが、長期的なコストパフォーマンスの判断材料になる。

なお、JOIFAの試験基準では椅子の座面耐久試験として5万回の繰り返し荷重に耐えられるかが一つの目安となっており、この基準を満たしていない製品は長期間の使用で不具合が生じるリスクが高まる。メーカーの保証期間とあわせて確認することで、導入後のリスクを低減できる。

ロッキングの種類と強度調整

ロッキング(揺れ)機能にはいくつかの種類がある。背もたれだけが倒れる「背ロッキング」はほぼすべてのオフィスチェアに搭載されている基本機能である。背もたれと座面が一定の角度を保ったまま倒れる「背座一体型ロッキング」、背もたれと座面が独立して動く「シンクロロッキング」はより上位の機能となる。シンクロロッキングは人間の自然な動きに近い状態で座れるため、長時間作業に向いているとされる。

なお、ロッキングとリクライニングは異なる機能であり、ロッキングが身体の動きに追従して自然に揺れるのに対して、リクライニングはレバー操作で任意の角度に固定するものである。作業スタイルに応じて適したタイプを選ぶことが望ましい。ロッキングの強度調整(体重に応じた反発力の設定)ができるかどうかも、快適性に影響する要素である。

キャスターの種類と床材との相性

意外に見落とされるのが、キャスターの種類である。一般的なナイロン製キャスターはカーペット向きで、フローリングやタイルの上では滑りやすく、床を傷つける可能性がある。ウレタン製のソフトキャスターはハードフロア向きに設計されており、使用する床材に応じた選択が望ましい。在宅勤務でフローリングの部屋に設置する場合には、キャスターの転がり音も含めてこの点の確認が重要になる。

加えて、キャスターの径も安定性や取り回しに影響する。径が大きいほど段差や電源コードを乗り越えやすくなる一方、座面の最低高さが高くなるため、小柄な方の場合には注意が必要である。

選定時の注意点とよくある思い込み

「メッシュ素材は蒸れにくいから優れている」という認識は広く浸透しているが、メッシュにも品質や張力の違いがあり、一概にすべてのメッシュチェアが快適とは限らない。座面メッシュのチェアは高級チェアに採用される傾向があるが、これは人間の体重をメッシュ生地一枚で支えるのに高度な技術が必要なためである。安価なメッシュ素材は経年劣化で伸びやすく、サポート力が低下することもある。素材の種類だけでなく、品質や張り方にも注目する必要がある。

また、「試座(ためしずわり)すれば分かる」という考え方も、ある意味では正しいが、5分程度の試座では長時間使用時の感覚は把握しにくい。展示場やショールームでの試座は第一印象の確認にはなるが、最終的な判断材料としては不十分な場合もある。可能であれば、レンタルやトライアル期間を設けて実際の業務環境で試すことが、より確実な選定につながる。

まとめ

オフィスチェアの選定は、価格やデザインだけでは十分とはいえない。座面の調整機能、体重対応範囲、ロッキングの種類、キャスターの床材適合性など、見落とされがちな評価基準を加えることで、実際の使用環境に即した選択が可能になる。JOIFAの品質基準なども参考にしながら、サイズ・素材・機能の3軸で総合的に評価することが、長期的な満足度を高める選定につながると考えられる。特に一括導入で数年〜10年にわたって使い続ける場合には、表面的なスペックだけでなく使用シーンを想定した多角的な評価が後悔のない選択につながるだろう。

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